台風に備えて知りたい「川を見に行く心理」とは?川辺が危ない理由も
今年もいよいよ、台風のシーズンがやってきてしまいました。
最近は、毎年のように巨大な台風が発生し、各地で「歴史的な」大雨による被害を受けていますよね。そのせいもあってか、社会全体の台風への危機意識も高まっているように感じます。
しかしそんな中で、昔からなくならないのが、台風や大雨のときに川を見に行き、流されてしまう事故です。
台風や大雨の危険性は、報道などでもたくさん耳にするのに、なぜ川に近づいてしまうのでしょうか。
そこで今回は、この「台風や大雨のときに川を見に行く」という行動の心理と、そもそもなぜ川に近づくだけで危険なのかについて、お話ししていきます。
また記事の後半では、いま仕事が増えているという、川の整備を担う人たちについてもご紹介します。
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!
台風や大雨のとき、ダメと言われても川を見に行くのはなぜ?
台風や大雨のとき「危険なので川に近づいてはいけない」というのは、日頃から色々なところで言われていますよね。そのため、知らない人はほぼいないのではと思います。
そうでなくても、増水した川に近づくのが危険なのは、何となくわかりそうです。
加えて今は、川のライブカメラ映像などもネットで見られるため、直接行かずともある程度の様子は分かるようになっています。
このように普段は分かっているはずなのに、台風や大雨のときに川を見に行ってしまう人がいなくならないのは、なぜなのでしょうか。
その行動の裏にある心理として、次の3タイプが考えられそうです。
・「見に行くな」と言われると気になっちゃうタイプ
・「大丈夫だろう」と思いこみ、うかつに川に近づくタイプ
・仕事などへの影響が気になり、使命感から見に行くタイプ
以下、この3タイプの心理がそれぞれどのようなものか、少し詳しく見ていきましょう。
ダメと言われると気になる「カリギュラ効果」
一例目は、「川を見に行ってはいけない」と言われたことで、逆に川の様子が気になってしまう、というタイプです。
「絶対押すなと言われたら押してみたくなる」「見てはいけないと言われると気になって仕方がない」……。
こんな気持ちは、個人差や状況による差はあれど、誰でも思い当たる節があるのではないでしょうか。
この、禁止されるほどやってみたくなる現象は「カリギュラ効果」と呼ばれます。
私たちの脳は「川を見に行ってはいけない」と言われた時点で、「川を見に行っているところ」を思い浮かべます。そして他人にそれを禁止されると、その制限された自由を取り戻そうとする反発の心理がはたらきます。
「カリギュラ効果」は、このような脳のはたらきによって起こる現象と考えられています。
どうせ大丈夫、と思い込む「正常性バイアス」
二例目は、「川を見に行くのは危険」と言われても、大丈夫だろうと思いこむタイプです。
例えば地震が起きたとき、毎回すぐ机の下にもぐる行動がとれる人は、意外と少ないのではないでしょうか。
これは、日本では地震はよくあることで、何事もなく終わる場合が多いため「どうせ今回も大丈夫だろう」という思いこみや慣れが生じているから、と言えます。
この、思いこみや慣れにより危険の察知能力がにぶる現象は「正常性バイアス」と呼ばれます。
普段の生活では「正常性バイアス」が働くことで、ちょっとの変化に反応してストレスをためることなく、心の安定を保つことができます。
しかし、身の危険がせまる状況では、この心理が逆に命取りとなることもあるのです。
危険への判断を鈍らせる、強い「使命感・責任感」
三例目は、農家の方や川のそばに工場がある方など、どうしても職場の様子が気になって見に行ってしまうタイプです。
このタイプの場合、川の近くが危険であることや、見に行っても被害が変わらないことは分かっていながら、強い「使命感や責任感」に突き動かされるように見に行ってしまいます。
強い「使命感」は、普段はプラスに働くことが多いです。
しかし、台風や大雨など、身の安全確保が最優先となる状況において、冷静な判断を妨げてしまうこともあります。
◇◇◇◇◇
私たちの中には、危険への判断を鈍らせるかもしれない脳や心のはたらきが存在します。
まずは、このような心理があることを知り、周りの人にも知らせることが大切です。危険な心理状況に気づくことができれば、「川を見に行く人」を減らせるかもしれません。
そもそも、台風のとき川の近くに行ってはいけないのはなぜ?
ところで、中にはこのように思っている方もいるかもしれません。
「川の中が危ないのはわかるけど、堤防があるだろうし、その手前なら大丈夫なのでは?」
「大げさな注意喚起でしょ?」。
しかし、この答えは残念ながら「NO」です。
台風や大雨のときに川の近くが「危ない」と言われるのには、注意喚起と同時に、たしかな理由もあるのです。
理由1:日本の堤防は、実はまだ整備途中だから
「日本では堤防の整備が済んでいる」と思われがちですが、実はまだまだ整備途中です。
現在、堤防は、その川における過去の最高水位などを踏まえた「河川整備計画」をもとに、整備が進められています。
計画に対する進捗は「堤防整備率」で知ることができ、国が管理する川(一級河川)全体の堤防整備率の平均値は、68.6%です(2020年3月末時点)。
こうしてみると、必要なはずの堤防がない区間や、高さ・幅が不十分な区間が、意外と多いことが分かります。
※参考:(公社)土木学会「日本のインフラ体力診断(道路・河川・港湾)[2021年9月]」
また、計画に対して整備が完了していても「安心」と言い切れない理由もあります。
洪水を防ぐための堤防は、昔から各地でつくられてきました。そのため、埋まってしまった古い部分の調査ができず、地質や構成材料が不明となっている堤防もあるのです。
つまり、堤防があるからと言って安心しすぎないことが、身を守る上で大切と言えます。
理由2:水を流せる量が、気候変動に追い付いていないから
また、気候変動による降水量の変化で、これまでの想定が役に立たなくなってきています。
これまでの整備計画は、過去の降水量や被害などをもとに立てられてきました。
そして、その水量を流せるだけの川幅や深さ、その水量に耐えられる堤防の整備などが進められてきました。
しかし、近年は雨の降り方が変わってきていて、今の整備計画のとおり整備しても、今後は洪水を防げない場合が増えると言われています。
そこで政府は今、気候変動を踏まえて、河川整備の方針自体を見直そうとしています。
「想定外」の大雨が降るということを「想定」して、防災施設の能力を過信しすぎないことも大切です。
堤防や川に関わる仕事は、これからアツい!
このように気候変動などの影響もあり、川の近くは大雨が降ると非常に危ない状況になっています。
それを受けて今、危険度を増す水害から私たちを守る「堤防や川に関わる仕事」の重要性が、どんどん高まっているんです!
ここからは、そんな川の防災の最前線で活躍する人たちの仕事を、少しのぞいてみましょう。
堤防や川に関わる仕事とは?
●川の防災を担う「河川工事」とは
堤防建設をはじめとして、川の防災を担う「河川工事」は、その内容によって種類分けされます。 ここでは代表的なものをご紹介します。
【築堤工事】
川の水位が上がっても、まちに水があふれ出ないよう、河川堤防をつくる・改修する工事。
【護岸工事】
流れに削られて、川の形が変わったり川幅が変わったりするのを防ぐため、コンクリートブロックなどを用いて岸を守る工事。
【樋門・樋管工事】
本川の水位が上がったとき、そこに合流する支川などに水が逆流するのを防ぐため、堤防の内部に設ける「樋門(ひもん)・樋管(ひかん)」をつくる工事。
【河道掘削(しゅんせつ工事)】
河床に土砂がたまると流せる水の量が減ってしまうため、洪水が発生しやすくなる。これを防ぐため、不要な土砂を取り除く工事。
このほかにも、河床を補強する工事(床固工)やダム建設、流出する土砂から下流域を守る砂防工事などが河川工事に含まれます。
●川の防災を担うのは、こんな人たち!
そしてこれらの河川工事プロジェクトに関わり、水害から私たちを最前線で守ってくれているのは、以下のような人たちです。
河川工事プロジェクトの……
【計画・監督をする】
・公務員(国土交通省・都道府県土木課など)
【調査をする】
・土木技術者
・環境技術者
・測量技術者 など
【設計をする】
・土木設計技術者
・CADオペレーター など
【実際に工事をする】
・施工管理者
・現場監督
・重機オペレーター
・土木技能者(職人) など
こんなにもたくさんの専門家の手によって、川の安全対策は進められているんですね!
★川の防災の仕事について、もっと知りたい方はこちらをご覧ください!
まとめ
今回は、台風や大雨のとき「ダメと言われても川を見に行ってしまう」心理の不思議と、川に近づくのが危ないと言われる理由についてお話ししてきました。
また、そんな危険な水害から私たちを守る、川の防災の仕事についてもご紹介しました。
「川を見に行きたい」と考えてしまう危険な心理状況を知り、川に近づくリスクについて理解しておくことが、自分や周囲の人を危険から守ることにつながります。
今年の秋は、危険な目に合う人を少しでも減らせるといいですよね!
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